建築確認申請代行は “誰でもできる事務作業” なのでしょうか

退職代行サービス「モームリ」の問題から見えること

2026年4月23日、退職代行サービス「モームリ」が新規受付を再開すると発表しました。同社では、前代表者らが弁護士資格を持たないにもかかわらず、報酬目的で弁護士業務を行ったとして逮捕・起訴され、新規受付を停止していました。
この事件は、建築確認申請代行の業界にも通じる問題を含んでいると感じます。
近年、インターネット上では「確認申請を安く代行します」「図面があれば申請だけ対応します」といったサービスが増えています。
一見すると、建築確認申請は単なる事務手続きのように見えるかもしれません。 実際、一般の方から「カーポートをホームセンターで購入するので確認申請をお願いしたい」といった相談を受けることも多くあります。

建築確認申請は単なる書類提出ではありません

しかし、確認申請の実務は、単に書類を提出するだけではありません。申請図書の作成、法適合性の確認、行政や指定確認検査機関との質疑対応、補正対応など、建築基準法、関係条例、構造、防火、避難、省エネなどに関する専門的判断が不可欠です。
ここで問題となるのが、建築士事務所登録を受けていない個人などが、報酬を得て、実質的に設計行為や建築確認申請の代理業務を行っているケースです。

退職代行における「伝言」と「交渉」の境界

退職代行業界では、弁護士資格を持たない事業者が「本人の意思を伝えるだけ」という範囲を超え、会社側との交渉や弁護士のあっせんに踏み込んだことが問題となりました。弁護士でない退職代行業者に許されるのは、原則として“伝言”までであり、交渉はできないとされています。
これを建築確認申請代行に置き換えると、同じ構図が見えてきます。建築士事務所登録のない申請代行業者が合法的に行える範囲は、依頼者から預かった書類を提出する、連絡事項を伝える、事務的な進行管理を行う程度に限られるはずです。

建築確認申請代行における法的リスク

ところが実務上、「この図面では通らないので直します」「法規チェックはこちらで行います」「設計者欄は取引先の建築士に入れてもらいます」「確認機関との質疑はこちらで対応します」といった運用が行われている場合があります。これは、もはや単なる書類の伝達ではありません。実態としては、設計、設計補助、法適合判断、建築に関する法令手続の代理に踏み込んでいます。
建築士法上、建築士または建築士を使用する者が、他人の求めに応じ、報酬を得て、設計・工事監理その他一定の業務を継続して行う場合には、建築士事務所登録が必要です。請求書の名目が「申請代行料」「図面補正料」「確認機関対応費」「事務手数料」であっても、実態として法規判断や設計図書の作成・修正、確認申請の代理を行っていれば、建築士法上の問題が生じる可能性があります。

「申請だけ代行します」という業務は成立するのか

では、「申請だけ代行します」という業務は成立するのでしょうか。
建築士事務所登録のない個人などが、報酬を得て合法的に行える業務はかなり限定されます。たとえば、依頼者から受け取った書類を整理する、申請先の窓口や予約状況を確認する、建築士が作成した図書を指示どおりに提出するといった範囲です。
しかし、確認申請代行の本当の付加価値はそこではありません。実務上の価値は、用途地域や建ぺい率、道路種別、接道、採光、換気、排煙、防火・準防火地域、延焼ライン、確認機関からの指摘に対する補正方針など、専門的な論点を整理し、設計者に確認しながら判断を進めることにあります。当然、そこには報酬が伴います。 つまり、建築士事務所登録のない個人などが「確認申請代行」をビジネスにしようとすれば、どうしても法的リスクのある領域に近づいていきます。

安さの裏にあるコスト構造の違い

無登録者による申請代行は、短期的には発注者にとって安価で便利に見えるかもしれません。しかし、建築士事務所登録を行い、管理建築士を置き、賠償責任や品質管理体制を整え、法令研修や実務確認を行っている事業者とは、コスト構造がまったく異なります。責任を背負う事業者と、責任の所在を曖昧にしたまま実質的な設計行為を行う者が、同じ土俵で価格比較されるなら、健全な競争とはいえません。 その結果、適法に運営する事業者ほど価格競争で不利になり、建築士の責任だけが重くなり、依頼者は安さだけで業者を選び、確認機関や行政の審査負担も増えます。最終的には、業界全体の信用低下につながります。

建築確認申請は建築物の安全性と適法性に関わる重要なプロセス

建築確認申請は、単なる「役所に出す紙」ではありません。建築物の安全性、適法性、資産価値、将来の維持管理に関わる重要なプロセスです。だからこそ、責任の所在が曖昧な“格安代行サービス”には、業界として強い警戒が必要です。

正規の外部パートナーとして求められる条件

一方で、建築確認申請代行というサービス自体が不要だというわけではありません。むしろ、設計事務所、工務店、ハウスメーカー、リフォーム会社にとって、確認申請、構造計算、省エネ計算、行政協議を専門的に支援する外部パートナーの重要性は高まっています。
ただし、その前提として、建築士事務所登録を受けていること、業務範囲が明確であること、設計者・代理者・申請支援者の役割を混同しないこと、名義貸しを行わないこと、法令適合性の検討記録を残すことが重要です。

確認申請代行の本当の価値

確認申請代行の本当の価値は、単に申請書を出すことではありません。設計者の意図を理解し、法令上の論点を整理し、確認機関とのやり取りを適切に支援し、建築主・設計者・施工者・確認機関のリスクと手間を減らすことにあります。
退職代行業界では、「伝言」と「交渉」の境界が問題となりました。建築確認申請代行では、報酬が伴う場合は建築士設計事務所の登録が必須であり、その前提で「事務補助」と「設計・法令手続代理」の境界が問題となります。 「申請だけだから大丈夫」ではありません。重要なのは、その申請の中身を、誰が責任を持って判断しているのかです。建築確認申請代行に求められるのは、登録、資格、責任、記録、説明責任を備えた正規の専門支援です。今回の退職代行の問題は、当社の業務のあり方についても改めて考えさせられる出来事でした。